経営者の認知症と事業承継

家族信託・民事信託

「長年、株主兼社長として会社を経営してきたが、高齢になり、そろそろ跡継ぎのことを考えなくてはと思っているが、どうすればいいのだろう?」。

このようなお悩みを抱えらえている中小企業の経営者の方々も多いのではないでしょうか?

家族信託を利用すれば、後継者問題もスムーズに解決できるかもしれません。
ここで、一般的な事例を題材にして、家族信託の利用による事業承継のスキームを解説していきます。

 

事業承継のお悩み事例~中小企業経営者A様~

Aさんは、会社を設立して30年。一人株主兼社長として、長年会社を切り盛りしてきました。高齢になり、会社の跡継ぎについて考えるようになりました。Aさんには、奥さんと、長男B、次男Cの二人の子供がおり、現在、次男CはAさんの会社で従業員として働いています。長男は、別の会社で働いているので、将来は次男Cに会社を継いで欲しいと考えています。このことについては、奥さん、長男Bも賛成してくれており、次男Cもゆくゆくは自分が会社を継ぐことに意欲的です。事業承継について、現在Aさんが悩んでいるのは、「いずれは、次男Cに会社を譲りたいが、自分も当分は現役の社長として仕事を続けたいし、次男Cについても、会社を継ぐにはもう少し経験が必要だ」と考えていることです。

 

ここで、もし何の対策もせずにいるとどのようなリスクがあるかを見てみましょう。

1.死亡した場合のリスク

何の対策もせずにAさんが死亡した場合、会社はどうなるのでしょう?社長であるAさんが亡くなってしまったので、会社を経営する人が不在になってしまいます。社長を選ぶのは株主ですが、Aさんが一人株主でしたので、選ぶ人も不在になってしまいます。Aさんの保有していた会社の株式もAさんの財産ですので、社長を選ぶには、会社の株式を相続する人を遺産分割協議で決定しなければなりません。Aさんのケースでは、奥さんや長男Bも、次男Cが会社を継ぐことに賛成してくれているので、特に問題になることは考えにくいですが、相続人同士で争いが生じる恐れがある場合や、相続人の中に長年行方知れずの人がいる場合は、社長を選ぶことができない状態が続き、会社運営が危うくなる恐れがあります。なお遺産分割協議をせずとも、株式の議決権を行使し、社長を選べる場合もありますが、ここでは割愛いたします。

 

2.認知症になった場合のリスク

何の対策のしないうちにAさんが認知症になり判断能力を喪失してしまった場合、会社はどうなるのでしょう?社長であるAさんは取引先や銀行などと契約を締結することができなくなり、結果的には①と同様に、会社を経営する人が不在になってしまいます。さらに、こちらも①の場合と同様ですが、Aさんは判断能力を喪失しているので、株主としてご自身に代わる社長を選ぶこともできなくなってしまいます。なお、成年後見制度を用いることも可能ではありますが、成年後見制度は、成年被後見人の財産を維持・保全するのが主な役割であり、積極的な財産の運用・処分はしにくい硬直的な面があります。よって、Aさんが判断能力を喪失した場合、Aさんに相続が発生するまで、会社の積極的な運営ができなくなってしまう恐れがあります。

 

以上のように、何の対策もせずにいると、会社は大きなリスクを負うことになります。

それでは、家族信託を利用した場合、このようなリスクをどのように回避できるか説明いたします。

 

家族信託を利用した場合

Aさんの意向は、
「いずれは次男Cに会社を継がせたい」
「自身も当分は社長として仕事をしたい」
「次男Cに継がせるには、もう少し経験が必要」
ということです。

このケースで家族信託を利用する場合は、信託財産をAさんが持つ会社株式とし、委託者をAさん、受託者を次男C、受益者をAさんとする信託契約を締結します。

契約条項に、「信託終了事由をAさんの死亡とし、株式の最終帰属先を次男Cとする」旨を盛り込みます。
これによって、Aさんが死亡した場合、株式は次男Cに引き継ぐことができます。

また、「議決権の行使については、受託者である次男Cは、委託者であるAさんの指図に従う」旨を盛り込むことによって、Aさんは引き続き会社のオーナーとして活躍することができます。

そして、「Aさんが判断能力を喪失した場合は、受託者である次男Cが自身の判断で議決権を行使できる」旨を盛り込めば、Aさんに認知症が発症した場合も対策は万全です。