不動産や金融資産の所有者あるいは名義人が認知症になりそれらの財産の運用や処分ができなくなる、いわば「資産の塩漬け」という問題が起こっています。
この問題は、認知症になった方のご家族だけの問題にとどまらず、わが国の経済にも悪影響を及ぼすのではないかと懸念されています。
成年後見制度とは
これまで、不動産や金融資産の所有者が自分で意思表示ができなくなってしまった場合に利用されてきた制度が成年後見制度です。
これは、認知症などで判断能力が不十分となった方を法律面や生活面で支援する制度です。
家庭裁判所に申立を行い、成年後見人が選任され、後見人が本人の法定代理人として、お金の管理や施設との契約、不動産の契約などを行います。
財産管理 | 預貯金・有価証券・不動産の管理、収入や支出の管理、税の申告や納税 |
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身上監護 | 医療、介護、福祉、住居に関する契約締結、サービスへの苦情申立、見守等 |
「法定後見制度」と「任意後見制度」
成年後見制度にも2つの種類があります。「法定後見制度」と「任意後見制度」です。
「法定後見制度」
判断能力がすでに低下してしまっている場合に近親者等が家庭裁判所に申し立てを行い、後見人を選任してもらいます。
「任意後見制度」
元気な人が将来の判断能力の低下時に備え、契約で自分が信頼できる人に後見人を頼むことができます。
法定後見 | 任意後見 | |
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タイプ | 事後対応型 | 事前対応型 |
手続きをできる人 | 配偶者・四親等内の親族等(本人も可) | 本人 |
後見人を選任する人 | 裁判所 | 本人 |
後見開始の手続 | 家庭裁判所に申立 ↓ 家庭裁判所が後見人を選任 |
任意後見契約締結を公正証書で締結 ↓ 家庭裁判所で任意後見監督人を選任 |
後見監督人 | 家裁が必要と判断した時のみ | 必須 |
本人の鑑定 | 原則必要 | 不要 |
後見の内容 | 民法の規定による | 当事者の契約の内容による |
後見人の取消権 | あり | なし |
成年後見制度のメリット
- 法定後見は本人や家族(配偶者・4親等内の親族又は3親等内の姻族)、市区町村長の申立てにより行います。一部の家族・親族の反対があっても申立てをすることができ、中立な立場の人間を成年後見人、保佐人、補助人に選任することができます。
- 判断能力が減退した方の財産管理、身上監護、各種契約代行(医療契約、施設契約等)を全般的に行うことができます。
- ご本人にとって不利益になる契約を締結してしまうリスクがなくなります。
成年後見制度の注意点
- いずれの制度でも後見人には家庭裁判所または後見監督人の監督がおよび、後見人といえども本人の財産を自由に運用・処分できるわけではありません。その管理・運用が本人の利益になるのかどうかが問われます。
- 法定後見制度の場合には近親者ではなく専門家(弁護士、司法書士等)が選任されることが多く、その場合、報酬が毎月数万円発生していきます。
こうした成年後見制度のデメリットを回避する制度として、家族信託が注目を集めています。これは、本人(委託者)の財産を信頼できる人(受託者)に託し、利益を得る本人(受益者)のために、契約で定めた目的に従って、管理・運用・処分してもらう制度です。
家族信託なら回避できるデメリット
家族信託であれば、
- 家庭裁判所の監督はなく、受託者は、契約内容には拘束されつつも、その範囲内であれば契約目的に従って自由に管理・運用・処分ができます。
- 本人が信頼する方に依頼して、信託の受託者となってもらいます。家庭裁判所が選任するわけではありません。
このように家族信託は、利用する方にとって成年後見制度よりもかなり柔軟性があるといえます。
家族信託を利用するなら、認知症になる前に
とはいえ、本人が認知症になってしまっては、この家族信託を利用することはできません。
認知症になってしまったら、もう成年後見制度を利用するしかありません。そうならないように、ご高齢のお父様・お母様が不動産経営など財産を積極的に運用されているような場合には、お元気なうちに家族信託という制度についても知っておかれるとよいと思います。